call up

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太陽が一年で一番元気が良く、空はペンキをぶちまけたが如く真っ青に染まる季節。 ロングなヴァケーションが横たわり、種々様々なイベントが目白押し。四季の中では一番忙しくなる季節。 天高く俺萎える季節。 ……そう。 つまり夏だ。 「暑い……」 暑さが苦手な俺にとって、この時期の外出は地獄でしかない。 今こうして歩いている間にも、体の水分は否応無しに奪われ、直射日光をガンガン浴びている頭は、卵を落とせば目玉焼きが出来るんじゃないかというぐらい、熱を蓄えている。 誰か落としてみるか? 「今年の夏は暑くなるな……。毎年言ってる気がするけど」 さて、どうして俺がこんなアホみたいに暑い時に汗水垂らして歩いているのかと言うと、例によって谷口に呼び出されたからだ。 『大変だ!すぐに来てくれ!』 という電話を貰ったのは今から一時間程前。 谷口にとっての「大変なこと」というのは、常人には「どうでもいいこと」あるいは「とても馬鹿げたこと」である。断言する。 つまり健全な若人たる俺がわざわざ行くことも無かったのだが、無視した時のリスクを考えると行かない訳にもいかなかった。 ちなみに、無視するとどうなるのかというと、 1.毎晩定時に電話が掛かってきて、般若心経のテープを延々と聞かされる 2.朝起きると、郵便受けに「オカルト通信」なる谷口手製の小冊子が入っている。 3.ミステリーサークル(オカルトサークルとも言う)に強制参加 この三つの中のどれか一つが確実に行使される。(上二つは経験済み) そんなことをされては俺の精神は間違いなく死滅する。仕方なしに谷口の家を訪ねた訳だ。 すると、奴は玄関のドアを開け放ってこう叫んだ。 『今年こそ恐怖の大王が舞い降りるぞ!』 ……うん。 十年ぐらい前に騒がれたよな。ノストラダムスがどうとか予言がどうとか。結局何にもなかったけど。 というか、「こそ」ってことは、こいつは毎年同じことを言っているのか? そんなことを考えつつ、俺は静かに谷口を殴り飛ばした。 そして現在は谷口の家をあとにして、帰宅の途についている。 全く。無駄な時間を過ごしてしまった。 ……特に予定も無いけど。
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