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ここらでちょっと整理しておこう。
まず、この空間はあの世とこの世の境目である。
なんで俺がここに居るのかと言うと、目の前に立っている『大天使サリエル』こと沙里奈が俺の魂を引っ込抜いて連れてきたから。
次に、天国というのは下界とはそれ程変わりない所だ。
閻魔大王の所得隠しだの罪を犯せば捕まるだの、死んでからも楽になる訳ではないらしい。転生するまでは働くってことか?
億劫だな……。
大体こんなところか。
俄かには信じられない話だが、全て俺の体験及び大天使様の証言が元である。
信じるしかあるまい。
だが、俺にはまだ解せないことがある。
「美咲をどうして俺のところによこした?」
そう。
わざわざ俺によこした意味が分からない。
お前が何とかしろよ。
「それにはちょっとした事情があるんだ」
沙里奈は続ける。
「私は今、死者の天国と地獄への振り分けを担当していると言ったな?」
あぁ。
それはさっき聞いた。
「それ自体は簡単な作業なんだ。生前の経歴を見て決める。簡単に言えば、犯罪者は地獄、善人は天国、という具合だな」
ふむふむ。
じゃあ俺は天国行きな訳だ。
「しかし、振り分けには前提条件があってな」
俺の話は無視ですか。
「現世に未練を残していないこと。それが前提条件だ」
未練を残していないか。
それまたどうして?
天界で世話してやれよ。
「そうしてやりたいのは山々なんだかな」
沙里奈はため息をついた。
「天界と下界の区別をつけるため、という理由で未練がある者の天界入りは許されないんだ」
むー……。
色々と厳しいんだなぁ。
「ま、未練がある者は現世に留まるからな。天界に来ること自体が珍しい。十年に一度とも、百年に一度とも言われている」
つまりその珍しいケースに当てはまったのが美咲って訳か。
「そう。しかも美咲はその珍しいケースの中でも輪をかけて珍しい。ぶっちゃけて言えば、前例が無かった」
前例が無かった……?
「あぁ。過去にあったケースでは、どういう未練を残してきたのかを自覚していた。だが美咲の場合、自分がどういう未練を残してきたのかを、美咲自身が分かってなかったんだ」
うーん……。
美咲らしいと言えば美咲らしいな。
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