third call

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「私としても対処に困ってな。未練が造作もないことなら現世へ突き返すが、人殺しとかだったら困るだろう?」 ……確かに。 そんなんで殺されたら、被害者は救われないな。 「そこで!」 沙里奈は人さし指をビシッ!と俺に突き付けた。 「お前に白羽の矢が立った、という訳だ!」 心無しか楽しそうな沙里奈。 いや、はしゃぐところじゃないと思うんだけど……。 「私を成仏させた実績を持つお前なら、美咲の未練も晴らせるかも知れない。そう思った私は、美咲に『自分なりに何が心残りなのか考えておけ』と言い置いて、お前のところに送り込んだんだ。分かったか?」 ……。 「いひゃい!?」 俺は沙里奈のほっぺを引っ張った。 すまん。これくらいのことはしないと、俺の気がおさまらない。 「な、何をするか!」 沙里奈はほっぺをさすっている。 若干涙目なのがいい。 「まったく、自分勝手なのも大概にしないとお兄さん怒るよ?」 「……迷惑だった?」 「そうじゃない」 俺は首を振った。 「誰か預けたいんなら一言連絡よこせって言ってんの。せっかくこんな力があるんだから。それからなら、いくらでも引き受けてやる」 もっとも、こいつの不安そうな顔を見たら「迷惑だ」なんて言える筈もない。 そんなことは夢にも思っちゃいないけどさ。 「……分かった。善処しよう」 沙里奈は間一髪でクラッシュ事故を避けたレーサーのような顔をした。 俺ってそんなに恐かったのか? 「しかしなぁ、もし美咲の未練が殺人とかだったら、どうするつもりだったんだ?」 美咲の様子を見るかぎりじゃ、未練は別のところにあるみたいだけど。 「その時は、私が狩る」 沙里奈は真摯な目で俺を見た。 「お前のことは私が守ってみせる。どんな手段を使ってもな」 真っすぐに俺を見つめる沙里奈。 その真剣な顔に、俺は釘づけになる。 「分かったら安心しろ」 破顔した表情もなかなか……って! 俺は何を考えている!? 「どうした?」 「なんでもねぇよ」 やばいやばい。 危うくやばいものに目覚めるところだった……。 「変な奴……」 変態な奴と言われなくてよかった。 ……じゃなくて、沙里奈の真剣な気持ちは分かった。俺も応えなければならない。 死人にまで頼りにされるのは幸せなのか不幸なのか。 ま、ポジティブに考えていきましょ。
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