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帰ってきた美咲は、落ち着いた色合いのブラウスにプリーツスカートという服装だった。
何ともまぁ清楚な装いで。
さっきのメイド服よりもこっちのがいいね。俺としては。
「未練ってのはあとどれくらいあるんだ?」
朝食のトーストをかじりながら俺は聞いた。
「んー。そうですねぇ……」
美咲はイチゴジャムを塗る手を止めて、考えるように顎に手をやった。
まぁそれ程多いとは思えないが。
「二つくらい、ですかね?」
二つか。
予想以上に少ないな。
今日中に片が付くんじゃないか?
「分かった。とりあえず、今日出来そうなものはあるか?」
「うーん……」
全く関係ないんだが、考えながらジャムを塗るのはやめた方がいいと思う。何か地層みたいになってるもん。掘ったら化石ぐらい出てきそうだ。
でも止めない俺。
「実家に帰りたいです」
実家か……。
大丈夫なのか?
「大丈夫ですよー。ちょっと様子を見るだけですし、見つかっても誤魔化せますから」
うむ……。
俺はあくまでも保護者としてついていくだけだし、別に止める必要もないか。
「美咲の実家はどこにあるんだ?」
「ここからなら、そんなに遠くないですよ」
そうか。
そりゃあ良かった。
「はい!電車で三時間ぐらいですよ!」
世間ではそれを遠いと言うんだ。全然近くないよ?
「三時間か……」
隣県だな。確実に。
どうすんの?山一つ越えちゃうよ?
時刻は午前九時。
早く出ないと帰りが遅くなるな。
「よし。飯食べたらすぐに出発しよう」
「はい!」
「早く食べろよ?」
「分かってますよー。……あ」
もはやゼリーのようになっているジャムの厚い層。
どう食べるのか見物だね。
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