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電車で遠出なんてどれくらいぶりだろう。
大学は歩いて行ける距離だし、生活用品は市内で揃うし、本当に電車に乗る用事なんて無い。
まして女の子なんてある訳が無かろう。実質デートだし。
と、目の前に少女を見ながら俺は思った。
向かい合わせの席は何だか恥ずかしいです。
「速いですねぇ」
まるで特撮ヒーローのステージショーを見ているような目で流れ行く景色を眺めている美咲。
俺も昔はこんなんだったかなぁ。ほんの些細なことでドキドキしたりワクワクしたり。
こういうの、諺でなんて言ったっけ。
「どうしたんですか?」
「いや、己の老い具合を憂えていた」
「はい?」
意味不明、という顔だな。
君も分かるさ。
あと三年くらいすれば。
「あとどれくらいで着きますかね?」
「うーん。二時間半、というところか」
「そうですか。楽しみだなぁ」
まぁ落ち着け。
先は長い。
「美咲の両親はどんな人なんだ?」
「優しい人ですよ。二人とも」
ふむ。
やはりいい両親の元ではいい子が育つのか。
そういえば、谷口の両親の顔を俺は見たことがない。
俺が訪ねる時はいつも留守だったな。仕事が忙しいのかな?
人の教育方針をとやかく言うつもりはないが、子供が常道を踏み外さないように舵を取るのが親の務めというもの。
会う機会があったら、ちょっと説教してやるか。
十秒で返り討ちだと思うけど。
「どうしたんですか?難しそうな顔をして」
「いや、ちょっと日本という国の将来を憂えていた」
「はい?」
無論、嘘である。
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