fourth call

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そういえば、『秘境』と言われてどんな風景を思い浮べるだろうか? 木々の生い茂った山? 絶海の孤島? 先住民が暮らしている村? 人それぞれだと思うが、日本にあるとすれば、多分一番最初のだろう。 狭い国土に切り立つ山脈。人の手が入ることのない山。むせ返るような緑の香り。 まさに日本の自然って感じだよな。 では、近代化が進んだ今日の日本に、『秘境』と呼ばれる場所はあるのか? 俺は断言する。 確実にあると。 だって俺の目の前に、そういう景色が広がっているんだから。 「着きましたよ。ここが私の地元です」 「すっげぇ山ん中……」 駅のホームを出た俺を出迎えたのは、まるで一昔前にタイムスリップでもしたかのような光景だった。 一応ロータリーらしきものはあるが、バスも車もある気配は無い。 駅も無人だから、当然人も居ない。 あるのは山、山、山。 もうお腹一杯です。 俺の町も田舎だったが、ここまですごい所ではない。 「うーん」 美咲は大きく伸びをした。 「やっぱり地元はいいですねぇ」 生まれた川に戻ってきた鮭は、多分今の美咲と同じ気持ちなのだろう。 なんで鮭なんて発想したのか疑問だが。 「こんな所に住んでいたのか?すごいな……」 「あっ、馬鹿にしてますね?そりゃあ山の奥の奥の方ですけど、いい所も沢山あるんですから」 すまん。 馬鹿にしたつもりはないんだ。 「で、美咲の家はどこに?」 「ここから歩いて一時間くらいです」 ……はい? 歩いて一時間ですと? バスとか無いの? 「バスは一日二本しかありません。この時間だと、今日の分はもうありませんね」 「……」 セミの鳴き声がやけに煩く聞こえる気がする。 今日も暑いなぁ……。
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