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通された部屋は真ん中に机が置いてある広い和室だった。座布団もきっちりとセットされている。
客室といった所だろうか。
「どうぞ掛けて下さいな」
「ども」
俺が座った隣に美咲も座る。
「お茶を煎れてきますから、適当にくつろいでてね」
言い置いて、美咲母は部屋を出ていった。
「大丈夫か?」
俺は美咲に話し掛けた。
「……はい」
さっきまでの元気一杯な姿とは一変、ずっと押し黙っままでいる。まるである日突然不治の病を宣告された人のようだ。
ここはそっとしておくべきか……。
「……ん?」
ふと、部屋の隅に仏壇があるのを見つけた。誰のかは言わずもがな。
来たついでだ。
線香の一本も上げていこう。
俺は立ち上がり、仏壇に向かう。
「あれ?」
仏壇の真ん中にある写真立てを見て驚いた。
黒い縁取りの中で笑っているのは、色白で肩ほどまでの髪の少女。恐らくこれが生前の橘美咲その人なのだろう。
今の姿からはおおよそ見当もつかないな。俺の斜め後方に座っている美咲をヒマワリとすれば、こっちの美咲はエーデルワイスと言うところか。
まぁ人形に憑依してるのだから、当然と言えば当然だが。
……おや?
線香が無い。切らしたまま補給を忘れたのかな?
仕方ない。
手だけ合わせとくか。
俺は目を瞑った。
「ごめんなさいねぇ。お線香、買ってくるの忘れちゃったのよ」
顔を上げて入り口の方を見ると、美咲母が湯呑みを乗せたお盆を持って立っていた。
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