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「どうぞ」
席に戻った俺の前に、美咲母は湯呑みを置いた。
「ありがとうございます」
何やらいい香りがする。
玉露だろうか?
我が家で使っている茶葉とは明らかに次元が違う。
「はい。あなたも」
「……どうも」
美咲、いくら元気が無いとは言え、返事くらいはちゃんとした方がいいぞ?
「うふふ。あの子のお友達が来るのも久しぶりだわ」
美咲母は俺たちの向かい側に座った。
やはりニコニコ顔だ。
「三ヵ月も経つと、直接家に来る人は居ないものなのよ」
「……そうですか」
何だかバツが悪くなって、俺はお茶を啜った。
「それにしても、あの子に男友達は居たなんて意外だわ。そういう話がない子だったから」
そうなのか?
写真を見る限りじゃ、わりとモテそうな感じがするが……。
「あなたは見ない顔ね。隣のクラスの子?」
「……」
聞かれてるぞ。美咲。
「え……?あっ、えと……」
聞いてなかったんかい。
「すみません。こいつ、変に緊張してるみたいです」
仕方ない。
適当に話をでっち上げるとしよう。
「奥さんの言う通り、こいつは美咲さんの隣のクラスの豊口望って言います。俺は悠二です。で、俺はよくこいつの送り迎えをしていて、時々美咲さんと一緒になることもあったんです。美咲さんが亡くなったって聞いたのはけっこう前だったんですけど、なかなか都合がつかなくて……」
いやはや。
我ながらよくこんなに口が回ると思ったね。
まぁ全部が全部嘘って訳じゃないが。
俺の名前の辺りだけ。
「まぁ。そうだったの」
どうやら納得してくれたようだ。
「望さん?」
「は、はい!」
「うちの娘と仲良くしてくれて、どうもありがとうね」
「い、いえ……」
「あの子も生きていたら、もっと沢山のお友達が出来たでしょうね……」
奥さんは悲しそうな目で仏壇を見つめた。
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