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子供を失った悲しみと言うのは早々癒えるものではないらしい。
俺は子供が居ないから、親心というのはよく分からない。
だけど奥さんの姿を見ていると、美咲がどれだけ愛されているのかが、何だか分かる気がした。
「本当に……あんな事故さえなければ……」
「交通事故で亡くなったんですよね?」
「えぇ。飲酒運転の車に突っ込まれて……」
「……え?」
飲酒運転の車だと?
一体どういうことだ?
「私は直接見た訳ではないから、詳しいことは分かりません。だけど、信号待ちをしているあの子の所に、車が突っ込んだのだと、警察の方から聞きました」
「そう……だったんですか……」
ショックが大きかった。
美咲は、ただの事故で死んだ訳ではなかったんだ。
いや、事故というのもおこがましい。
飲酒運転の車に突っ込まれたなんて、殺人事件も同然じゃないか!
俺は自分の拳に力が入るのを感じた。
「ちょっと、大丈夫?」
奥さんが美咲に声を掛けた。
「あ……ああ……」
見ると、美咲は震える手で頭を抱え、ぎゅっと目を閉じている。
「お、おい――」
「車が……車が……」
車?
今、車と言ったか?
……まさか。
事故の時の記憶がフラッシュバックしたのか?
「すみません。ちょっと席を外します」
とにかくここに居るのは得策ではない。
俺は美咲を連れて部屋を出た。
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