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しかし、どこか休憩に適している場所がある訳でもない。
とりあえず寺の敷地内から出て、門近くの木陰で休ませることにした。
「大丈夫か?」
背中をさすってやる。
美咲はさっきよりかは落ち着いているが、まだ自分の肩を抱いて震えている。
「今日はもう帰ろう。奥さんに話つけてくるから」
「私……すごく恐かったんです……」
美咲が口を開く。
「普通に信号で待っていただけなのに、車が猛スピードでこっちに向ってきて……。私は身動きが取れなくて……。ぶつかったと思ったら意識が無くなって……」
「泣くな。大丈夫だから」
俺は美咲の両肩に手を置いた。
「そんな車、もう無い。もう無いんだよ。過ぎ去った過去のことだ。犯人は償うべき罪を科せられる。だから、そんな恐い記憶は、早く消しちまおう」
被害者にこんなことを言うのは酷な話か?
すまんな。
他に言葉が見つからなかったんだ。
「俺の顔、ちゃんと見えてるか?」
「……はい」
潤んだ瞳は濁りの無い色をしている。
どうやら正気に戻ったようだ。
「じゃあ話をつけてくるから、大人しく待っているんだぞ?」
「そんなに子供じゃないです……」
そんだけの口が聞けりゃ、大丈夫だな。
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