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山の夕暮れってのは、すんげぇもんだなぁと俺は思った。
遠くのお山に日が沈み、空が真っ赤に染まる頃。カラスが家路を急ぐ声も聞こえる。
夕焼けがいつもより綺麗に見えるのは、空気が澄んでいるからだろうか?
「自分のお墓を見るのは何だか不思議な気分ですね」
美咲がぽつりと呟いた。
ここは橘家から少し登った所にある、小さな墓地だ。位置はお寺の丁度上くらいか。
多分、美咲の両親が管理している墓地なのだろう。
「お花もちゃんとあるし……。お母さんかな?毎日来てくれてるのは」
黒い墓石の真ん中には「橘家」ときっちりと彫られている。
比較的新しいところを見ると、つい最近作られたものだろうか。
両端にある花瓶には、色とりどりの花が飾られている。
「結局、私は忘れられちゃったのでしょうか?」
しゃがんで自分の墓石を撫でながら、美咲は言った。
「お母さんが言ってましたよね?三ヵ月も経ったら家を訪ねてくる友達は居ないって。何だか寂しい気がします」
その顔は、泣くのを我慢しているような、すごく切ない笑みを浮かべていた。
「それは違う。誰も美咲のこと、忘れちゃいないさ」
「え?」
俺は美咲の隣にしゃがんだ。
「みんな忘れた訳じゃない。お前の死を、しっかりと受け入れただけさ」
風がひと吹き。
花瓶の花をゆらした。
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