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美咲は泣き疲れたのか、電車に乗っている間ほとんど寝ていた。
別段起こす理由も無かったのでそっとしておいたが、俺はそこで、振り子電車の威力を目の当たりにすることになる。
揺れるのね。すごく。
行きは美咲と話しつつだったから気にならなかったが、一人黙って乗るとなるとけっこう堪えるものだ。
そもそも、何でわざわざ揺れることを設計されているのかが分からん。
乗客はどうなってもいいのか?
もう絶対乗らねぇ……。
「おい、いい加減起きなよ」
「ん……」
そんなこんなで、ひどい乗り物酔いに悩まされながらも、最寄りの駅である綾坂駅に着いた。
何とか駅の外まで引っ張ってきたはいいが、まだ寝呆け眼な美咲。
「眠いですぅ……」
「おいおい……」
足取りもおぼつかない。
立ってはいるが、こっくりこっくりと船を漕ぎつつある。
「仕方ねぇなぁ」
時間的にはもう夜中と言ってもいい。
周りに誰も居ないことを確認し、俺はしゃがんだ。
「ほら、おぶってやるから」
「はい……」
背中に柔らかい感触。
煩悩は捨て去るんだ!俺!
「よっこらせっと」
おっ、意外と軽いな。
……失礼か。
「くー……」
美咲はもう寝てしまった。
たまには俺の労もねぎらってもらいたいものだがな。
夏休み早々に厄介ごとに巻き込まれ、見ず知らずの人間の為に貴重な時間を割いているんだから。
……まぁ、悪い気はしないし、半分楽しんでいたりするけれども。
「やれやれ……」
ため息一つ。
俺は自宅へと続く坂道をえっちらおっちらと歩き始めた。
この分だと夕食はいらないかな?
多分美咲は起きないだろうし、作るのもめんどくさい。一食抜いたって死ぬことは無いだろう。
今日こそは、ゆっくりと寝たいものだ。
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