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「まぁその、何だ……」
さっきのケラケラ笑いから一変、急に歯切れが悪くなった。
どうした?
深刻な顔は似合わないぞ?
「今日はご苦労だったな。美咲が事故で死んだことは知っていたが、状況までは把握していなかった」
「……あぁ」
一介の高校生を巻き込んだ事故。
無垢な少女の未来を奪った事故。
一人のクソ馬鹿野郎によって引き起こされた、悲惨な事故。
……畜生。思い出しただけで腹が立ってくる。
「なぁ、沙里奈」
「ん?」
次の瞬間、俺は無意識のうちに言葉を発した。
「お前の力で、犯人を葬り去ることは出来ないのか?」
「……何を言っているのか分かっているのか?」
沙里奈の鋭い眼光が俺を射抜く。
しかし、構わず続ける。
「日本の法律では飲酒運転によって死亡事故が起きても、極刑を科することは出来ない。よくて何年かの禁固刑だろう」
「……悠二」
「しかしな、俺は飲酒運転による死亡事故は殺人と変わらないと考えている。酒を飲んだら運転するなってのは常識中の常識だ。しかし、奴さんはそれを破って事故を起こした。禁固刑じゃ甘すぎる」
「悠二」
「ぶっちゃけて言えば、俺は犯人がこの世に存在していることが許せない。美咲みたいな子が死んで、殺した輩がのうのうと生きているなんて、俺は耐えられない。だからお前の力で――」
「悠二っ!!」
かつてない程の怒号。
俺ははっと我に返った。
「頼む……。そんなこと、言わないで……」
沙里奈は今にも泣きそうな顔をしていた。
「お前の気持ちは分かる。私だって許せない。だけど……だけどな、いくら憎くたって殺すなんて絶対に駄目だ。かつて呪いでお前を殺そうとした私が言えたことではないかも知れない。でも……ごめん。うまく言葉に出来ない」
「……すまん」
畜生。
俺としたことが、頭に血が上って冷静な判断が出来なかった。
そうだよ。そんなこと言ったら、俺も美咲を殺したクソ馬鹿野郎と同じだ。
情けねぇ。
「分かってくれればそれでいい。でも……」
沙里奈の目の奥に、決意の色が見えた。
「美咲を殺した奴が天界に来たら、私が責任を持って断罪する。多少重くなったって文句は言わせない。約束する」
「……そうか」
その小さな体からは想像も出来ない威厳と存在感。そして、すべてを委ねてもいいと思わせる安心感。
俺は改めて自分の小ささを実感した。
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