sixth call

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「……」 相手はなかなかの大物。 真ん中を狙ったのではまず動かない。 とすれば、狙うのは頭。 他に当たれば勝機は無い。 「おりゃ!」 まずは一発。 放った弾丸は寸分の狂いもなくクマの眉間に突き刺さった。 反動で少し動いたようだが、こんなもんで落ちる相手じゃない。 「わぁ!悠二さんすごい!」 美咲は手を叩いて喜んでいる。 が、喜ぶのはまだ早い。 こういうのは、景品を落として初めて意味のあるものになるんだ。 「はっ!」 続けて二発目。 狙いあやまたず、クマの眉間に当たる。 しかしまだ倒れない。 今回のターゲット、なかなか手強いようだ。 「あの、大丈夫ですか?」 そう心配そうな顔をしなさんな。 俺にはまだ一発残ってんだぜ? 「……よし」 玉を込め、照準を合わせる。 「墜ちろ!蚊トンボ!」 掛け声とともに引き金を引く。 俺の気合いを乗せた玉は、クマの眉間を再び射る。 三度の銃撃を受けたクマさんは大きく傾き、棚から落ちた。 ……ふ。 この世の物理法則のすべてをぶち壊す俺の気合い。それを受けた時点でお前の負けだ。クマさんよ。 「やったぁ!」 美咲はまるで自分のことのように喜んでいる。 ま、こんなもんですか。 「いやぁ参った参った。兄ちゃんに来られたら商売上がったりだなぁ」 豪快に笑う屋台のおっちゃん。 「ほらよ。早く彼女に渡してやんな」 俺はおっちゃんからぬいぐるみを受け取った。 おっちゃんの戯言は、あえて無視することにする。 「はい」 次いでぬいぐるみを美咲に渡す。 「わぁ!ありがとうございます」 美咲は嬉しそうに、そしていとおしそうに、ぬいぐるみを抱き締めた。 「これでまた、思い出が一つ増えました!」 今回の報酬は、可愛い少女のほころんだ顔か。 うむ。悪くない仕事だった。
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