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夏の夜空を彩る大輪。
それはヒマワリのような力強さと、桜のようなはかなさを併せ持つ、不思議な存在。
日本人でよかった。誰もがそう思わざるを得ない。
花火はそういうものなのだと俺は思う。
「綺麗……」
美咲が感嘆の声を漏らす。
「だろ?これを肴にラムネを飲むってのも、なかなか乙なもんだ」
「ふふっ。悠二さん、何だか親父っぽいです」
「うっせ」
花火を見るのに絶好の場所。それはずばり、我が家のベランダだ。
我が家が小高い丘の上に建っているのは周知の通り。そのベランダからの眺めは、言わなくても分かるだろう?
皆神川はここからだと少し西の方にある。そこから打ち上げられる花火を、人混みに紛れ込まず、かつ無料で楽しめるんだ。
うちの親が何でこんな所に家を建てたのか。今なら分かる気がするな。
「ホント、引き受けてくれたのが悠二さんで良かったな」
美咲がぽつりと呟く。
「もし怖い人だったらどうしようって、ずっと考えていたんですよ?」
少し照れ臭そうに笑う。
「でも、実際は優しい人で、ホントに良かったです」
「……まぁ、困った時はお互い様だから」
面と向かってそんなこと言われると、何だかすっごく恥ずかしいぞ。
「そういえばさ」
とりあえず話題を変える。
「最後の未練って一体何なんだ?」
結局、今日は一日その話題には触れなかった訳だが、やはり気になる。
美咲が最後まで取っておいた未練。それほど大事なものなのか?
「えっと……。そうですね」
美咲は皆神川の方に視線を向ける。
つられるように俺も見る。
今は花火の方は一段落しているようだ。
「今すぐにでも晴らせられる未練、かな?」
「へぇ」
そりゃあいい。
せっかくだ。
この場で晴らせよう。
「で、それは一体?」
「えと……その……」
美咲は何だか言うのを迷っているみたいだ。
まずいことを訊いちまったか?
「や、言いたくなかったら明日や明後日でも構わない。そんなに焦らなくてもよかったな」
「……いえ。私の方も、決心出来た気がします」
美咲がこちらを向く。
「驚かないで聞いてくださいね?」
「あぁ。分かった」
俺は皆神川の方を向いたまま、ラムネを呷る。
「……私のファーストキスを、貰って下さい」
「ぶはっ!!」
俺はラムネを思いっきり吹いた。
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