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「あっ……」
美咲の額に、そっとキスをした。
「悪いな。乙女の純潔は、やっぱり男が守らなくちゃいけないんだ」
美咲は自分の額を撫で、惚けた顔で一言。
「勿体ないですね。せっかくのチャンスだったのに」
「据え膳を食わぬは男の恥ってか?くそ喰らえだな」
というか、女の子がそんなこと言っちゃいけません。
「……未練、残っちゃいますよ?」
「良かったじゃないか。早めに転生させてもらえるかも知れないぞ?」
俺は五十万ドルの夜景に目を向けた。
「美咲の気持ちは嬉しい。しかし俺としては、まだ気持ちの整理がついてないってのもあるんだ。その場の空気で流される訳にもいかん。それこそ失礼だ。それに、あいつのこともあるしな」
「サリエル様、ですか?」
「……あぁ」
まったく。
つくづく俺は情けない男だと思う。殴ってくれてもいい。罵ってくれてもいい。
だが、俺が足りない頭をフル稼働させて出した結論がこれだ。
「だからさ、しばらくしたらまた俺ん家に来てくれ。その時までには、俺も自分の気持ちに踏ん切りをつけておく。他力本願で申し訳ないが、こればっかりは譲る訳にはいかん」
「……かたいんですね。色々と」
美咲はため息をついた。
しかし、顔は笑っていた。
「まったくだ。我ながら、随分損な性格だと思う」
つられて俺も笑った。
「分かりました。近いうちに改めて、悠二さんの所を伺います。良い返事、期待していますから」
「善処しよう」
花火の上がる音。
どうやら花火大会が再開されたようだ。
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