3人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「お前勿体無いことしたな」
千尋は笑って煙草を吸った。
煙は風に撒かれて一瞬で消える。
千尋、ごめん。
僕はまた謝った。
この先、僕は沢山の人に嘘をつき謝るのだろう。
構わない。
波風は出来るだけ立てたくないんだ。
「慰めてあげようか?」
振り向くと千尋は含み笑いを浮かべていた。
「奢りなら」
じゃれ合いながら屋上を後にする僕らを、太陽は照らし続けている。
あとどれ位こうして笑えるんだろうか。
初めて、自分がいなくなった世界を想像した。
僕のいない仕事場、僕のいない自分の部屋。
僕がいなくなっても千尋はこの屋上で煙草を吸うのだろうか。
早紀は、良い人を見つけて、結婚して、家庭をもつんだろうか。
これだけ想像しても、まだ自分が死ぬ実感なんて微塵も感じなかった。
最初のコメントを投稿しよう!