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照りつける太陽のもとをしばらく進んでいくと、周りを彩る岩よりもひときわ大きな岩が見えてきた。
「あそこまで行ったら、少し休むか」
「やったあ!」
「でもこの辺りにゃ――っておい、コラ!」
休めると聞いて、砂竜を急がせる少年。止めようとしたジイの言葉もきかず、さっさと砂丘の向こうに消えてしまう。
ジイも急いで鞭をくれたが、二頭立てとはいえ車のついた砂竜だ。子供しか荷物のない竜に、追いつけるはずがない。
「うっ……わあぁぁー!!」
「ちッ、言わんこっちゃねぇ」
叫び声を耳にし、ジイは車に繋いだままの竜に飛び乗った。軛を外すと、もう一頭と車を置き去りにして砂丘を越える。砂色をした巨大な蛇から、必死に逃げる少年が見えた。
「砂オロチかッ……! コラ、上手く避けろよ!」
叫びながら腰の銃を抜き、少年に向かってためらいもせず引き金を引く。
走るコラの姿が、立ちのぼる陽炎の先にブレて見えた。銃口から碧い光が迸り、狙い済ました弾道が少年の頭を貫く。
当然、撃たれた彼は砂竜ごと倒れ、光は勢いを殺さぬまま怪物の胸を抉った。それは一瞬体を震わせたかと思うと、文字通り砂と化して崩れていく。倒れていた少年の姿は、崩れた砂に埋もれてしまったのか、もはや見えない。
怪物の最期を見届けると、やがて男は振り返らず、低く声を出した。
「コラ」
「……」
「ちょっと来い」
「……はい」
どんな魔法を使ったのか、先ほど確かに撃たれたはずの少年が、恐る恐る出てくる。
次の瞬間、ばちん! と景気のいい音がして、発達しきっていない軽い体が宙を舞った。更にジイは竜から降りて、赤くなったコラの頬をさらに摘む。
「い゛ッ――!!」
柔らかな頬をひとしきりつねり倒すと、男は溜め息をついて立ち上がった。無表情に少年を見下ろし、静かに口を開く。
「何を言いたいか、分かるな?」
少年は頬をさすりながら、涙目でうなずく。
「ここじゃ何が起こるか分からんと、何度も言ったな。……俺もそんな若くねぇんだ、あんまり無茶させんな」
それだけ言うとジイは竜に飛び乗り、首を叩いて方向を変えるとその腹を蹴る。
コラものろのろと立ち上がり、心配そうに鼻面を寄せる砂竜を撫でると、その背に乗った。手綱を取り、男の後ろ姿を追う。
それから大岩に着くまで、二人の間に会話はなかった。
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