砂漠渡りの民

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   砂オロチに襲われてからというもの、少年の口数はめっきり減った。ジイが何かを言えば反応はするものの、あまり芳しくはない。  そうして三日が過ぎた夜。あまりにも長い沈黙に、遂に耐え切れなくなったジイが声をかけた。 「なぁ、コラ君よぉ。いつ迄拗ねてるつもりだ?」 「拗ねてない」 「だったら何で、いきなり避けてみたり、黙ったりすんだ」 「……ジイさんなんか嫌いだ」  少年は食事の手を止めて、ぼそりと呟く。 「おいおい、勝手について来といて、そりゃねぇだろ。俺がガキ嫌いだっつの、承知で来たんだろ?」 「ガキ扱いすんな!」 「そういう所がガキなんだよ。たった十四で何ほざいてんだ、バーカ」  茶化すような調子で言うが、その目は決して笑ってはいない。 「コラ、お前さ。何つって俺についてきたんだっけ?」 「……なんで」  聞き返す言葉に、男はにやりと口の端をつりあげる。 「恥ずかしいか?」 「違う」 「じゃあ、聴かせろよ」  ジイはにやにやしたまま、少年の隣にどっかりと胡坐をかいた。  なんだか癪に障ったが、言わないまま茶化される方がもっと嫌で、コラは小さく口を開く。 「自分の足で……ソアレルイに行ってみたい」 「もっとちゃんと」 「……ソアレルイに、行って帰って……親父とか……俺をバカにしてた連中を、見返してやりたい」 「だよな」  少年の頭にぽん、と手を置き、男は言葉を続ける。 「全くもって、青臭ぇ理由」 「……!」  男の呟きを耳にして、乗せられた手をはねのける。除けられたジイには、そんな彼のささやかな反抗がおかしく思えて、つい大口をあけて笑った。  笑われたコラは、ますますいじけてそっぽをむく。 「あっはっは、悪ぃ悪ぃ! でもよ、嫌いじゃねぇぜ? 男ってのは、現実に夢を見る生き物だ。突き進まなきゃ死んじまうのさ」 「さっき、ガキは嫌いだって」 「自分じゃ何もしねぇで、拗ねてるようなガキはな。夢とか欲しいもんに、ガキも大人もねぇだろう? 例えば俺が砂漠を渡る理由はひとつ。そこに冒険があるからだ!」  立ち上がって空を指差し、自信満々にそう言ってのけた男を、コラはきょとんとして見つめた。  それから少し間を置いて、思わず吹き出す。少年はそのまま、声をあげて笑い出した。  
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