47人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
砂オロチに襲われてからというもの、少年の口数はめっきり減った。ジイが何かを言えば反応はするものの、あまり芳しくはない。
そうして三日が過ぎた夜。あまりにも長い沈黙に、遂に耐え切れなくなったジイが声をかけた。
「なぁ、コラ君よぉ。いつ迄拗ねてるつもりだ?」
「拗ねてない」
「だったら何で、いきなり避けてみたり、黙ったりすんだ」
「……ジイさんなんか嫌いだ」
少年は食事の手を止めて、ぼそりと呟く。
「おいおい、勝手について来といて、そりゃねぇだろ。俺がガキ嫌いだっつの、承知で来たんだろ?」
「ガキ扱いすんな!」
「そういう所がガキなんだよ。たった十四で何ほざいてんだ、バーカ」
茶化すような調子で言うが、その目は決して笑ってはいない。
「コラ、お前さ。何つって俺についてきたんだっけ?」
「……なんで」
聞き返す言葉に、男はにやりと口の端をつりあげる。
「恥ずかしいか?」
「違う」
「じゃあ、聴かせろよ」
ジイはにやにやしたまま、少年の隣にどっかりと胡坐をかいた。
なんだか癪に障ったが、言わないまま茶化される方がもっと嫌で、コラは小さく口を開く。
「自分の足で……ソアレルイに行ってみたい」
「もっとちゃんと」
「……ソアレルイに、行って帰って……親父とか……俺をバカにしてた連中を、見返してやりたい」
「だよな」
少年の頭にぽん、と手を置き、男は言葉を続ける。
「全くもって、青臭ぇ理由」
「……!」
男の呟きを耳にして、乗せられた手をはねのける。除けられたジイには、そんな彼のささやかな反抗がおかしく思えて、つい大口をあけて笑った。
笑われたコラは、ますますいじけてそっぽをむく。
「あっはっは、悪ぃ悪ぃ! でもよ、嫌いじゃねぇぜ? 男ってのは、現実に夢を見る生き物だ。突き進まなきゃ死んじまうのさ」
「さっき、ガキは嫌いだって」
「自分じゃ何もしねぇで、拗ねてるようなガキはな。夢とか欲しいもんに、ガキも大人もねぇだろう? 例えば俺が砂漠を渡る理由はひとつ。そこに冒険があるからだ!」
立ち上がって空を指差し、自信満々にそう言ってのけた男を、コラはきょとんとして見つめた。
それから少し間を置いて、思わず吹き出す。少年はそのまま、声をあげて笑い出した。
最初のコメントを投稿しよう!