黒を宿す天使

11/18
前へ
/18ページ
次へ
 長い黒髪を揺らす後ろ姿を見送って、ゼウスは深い溜息をついた。  ギョッとしたのは左右に控える四大天使の二人であった。 「如何なさいました、ゼウス様?」  薄紅の生地に百合の花をあしらった法衣を纏い、腰まである紅茶色の髪を背中の辺りで結んだ美青年は、女のように大きな双眸を見開いて問う。  ゼウスから向かって右に立つ、薄紫の法衣に身を包む青年も、同じ疑問を持っていた。  この二人がゼウスの傍に控えるようになってから五十年になるが、そんなに深い溜息をつく相手は一人しか知らなかった。 「ユーディットは、お前達より遥かに先に生れた天使だ」 「存じております」 「それが何故、未だにあの姿を留めているのだろう……あれは、私の罪だ」  沈黙が落ちる。輝きに充ちているはずの空間が、沼地のように息苦しい。 「何故、そのような事を……?」 「時期がくれば、お前達にも解る」  冷厳に言葉を切ったゼウスだが、おもむろに立ち上がると数歩進んで振り返り、直立不動の二人に微笑みかける。 「お前達、見送りに行かなくても良いのか?」 「!?」 「此処にはもう、熾天使を数人呼んでいる。ウリエルも呼んで行きなさい」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加