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長い黒髪を揺らす後ろ姿を見送って、ゼウスは深い溜息をついた。
ギョッとしたのは左右に控える四大天使の二人であった。
「如何なさいました、ゼウス様?」
薄紅の生地に百合の花をあしらった法衣を纏い、腰まである紅茶色の髪を背中の辺りで結んだ美青年は、女のように大きな双眸を見開いて問う。
ゼウスから向かって右に立つ、薄紫の法衣に身を包む青年も、同じ疑問を持っていた。
この二人がゼウスの傍に控えるようになってから五十年になるが、そんなに深い溜息をつく相手は一人しか知らなかった。
「ユーディットは、お前達より遥かに先に生れた天使だ」
「存じております」
「それが何故、未だにあの姿を留めているのだろう……あれは、私の罪だ」
沈黙が落ちる。輝きに充ちているはずの空間が、沼地のように息苦しい。
「何故、そのような事を……?」
「時期がくれば、お前達にも解る」
冷厳に言葉を切ったゼウスだが、おもむろに立ち上がると数歩進んで振り返り、直立不動の二人に微笑みかける。
「お前達、見送りに行かなくても良いのか?」
「!?」
「此処にはもう、熾天使を数人呼んでいる。ウリエルも呼んで行きなさい」
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