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漆黒を宿す大きな翼と、地を這うほどの長い黒髪。
悪しき者を惑わすため、特別に許された黒の長衣。
神の真実さえ見抜くと言われる、くすんだ灰の双眸。
そして白く冴える、あどけない美貌。
天界で唯一、黒を許された者の名を知らぬ天使は、一人としていなかった。
ユーディットは不躾な視線の嵐も素知らぬ顔で、自分を召喚した主の下へと向かっていた。
天使達の職務の中心となる『大聖堂』を抜け、厳重に結界が張られた長い橋を難なく渡る。
壁を知らぬ風のように進み続け、『神殿』の前で初めて足を止めた。
「ウル、ここを開けて下さい」
澄んだ水面を思わせる、甘く優しい声だった。
見た目と同様に、性別が特定しづらい声とも言える。
扉の奥で応じた声の方が、はっきりと男を感じさせた。
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