黒を宿す天使

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『ユーディット、私はウリエルだ。ウルなどという軟弱な愛称で呼ばないで貰いたい』 「解りました、ウル。だから早くここを開けて下さい」 『君は……もういい、入りたまえ』  半ば諦め気味の返事に礼を言い、ゆっくりと開き出した門の隙間から素早く中へ滑り込む。  外からも確かに広大に見えた神殿だが、中に入ると解るとおり、扉から先は別の空間に繋がっていた。  壁はあるのに、天井は先が見えない。  広い通路の深奥にそびえる玉座への扉も、辿りつくのに時間がかかりそうであった。  清澄な気と光が満ちていなければ、牢獄とも言えたかもしれない。  キラキラと降り注ぐ明かりを全身に受け、ユーディットは頭上を振り仰いだ。  そこは見たところ何も無いが、幼い顔には小さな笑みが浮かぶ。 「まだ、隠れんぼがしたい年頃ですか?」 「……いつまでも子供扱いしないで貰おうか、ユーディット」  虚空から唐突に、薄蒼の青年が現れる。  青年は蒼を基調に金糸銀糸をあしらった法衣に身を包み、清涼な小川を思わせるクセの無い長髪を靡かせ、黒天使の前に舞い降りた。  長身痩躯の青年の名はウリエル。  大天使でありながら熾天使を超える能力と地位を持った、四大天使の一人である。
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