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黄金とも違う、神のみが作り出す事を許されたその金属を、人はオリハルコンと呼んだ。
天界でもここ――『玉座の間』をふんだんにあしらう物以外は、上級天使たちが携える剣や楯くらいなものだろう。
地上に存在する理由は、神の気紛れとしか言えなかった。
そんな貴重な金属のみで作られた豪奢な扉を押し開け、ユーディットはソロソロと足を踏み入れた。
白亜の空間は外の身廊と違い、有限の空間ではあったが、比べ物にならぬほど神聖なる気に充ち満ちていた。
大理石の床が、軍靴に応じてコツリと鳴る。
「遅かったな」
怜瓏にして壮厳なる声に打たれても、ユーディットは身じろぎもしなかった。
畏れるでもなく、湛えた微笑を深くして、その男の前へと歩み出る。
豪奢な玉座に腰を下ろし、両脇に六翼の天使を控えさせるその男は、青銅を溶かしたような銀の長い髪を波打たせ、ユーディットを見つめていた。
褐色がかった肌と、磨きぬかれた黒曜石の双眸が良く似合う、不思議と年齢の判らない顔立ちである。
他の上級天使のように、際立って美しい貌ではないが、慈愛に満ちた表情に、人は限りない感動と敬愛を覚えるであろう。
その男こそが天界の主神、ゼウスであった。
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