黒を宿す天使

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「そうか、それは良かった」  ゼウスは厳かに肯き、言葉を続けた。 「今日そなたを呼んだのは、仕事の引継ぎを申し渡すためだ」 「引継ぎ、でしょうか? いったい誰と?」 「ミカエルの補佐はこれからウリエルが果たす。そなたは……ルシフェルに代わり、人間界の視察を頼みたい」 「私が、ルシフェル様の代わり……なんと恐れ多い」  ユーディットが驚きに声を低めると、ゼウスは苦笑して手を振ってみせた。 「大したことはない。休暇のようなものだ。旅をして噂を集めるも良し、どこかに留まり様子を見るも良し。私としては、留まってくれるとありがたいのだかな」 「……仰せの侭に。して、ゼウス様。私は何処の世界に降りれば宜しいのでしょうか?」  世界は一つではない。神々が天上天下を巻き込むような争いを起こすたびに、新たな世界が作られてきたのだ。  だが増えすぎた世界はやがて綻び、時としてまがい物の神を生み出すことさえあった。  異変に気付いた神々は世界の創造を止め、生けるものが絶えた世界を崩壊させ、同時に三界を統べる神を選んだ。  多くの神が自らの命と力を削り生み出した三柱は、各々の世界にあった能力を持つ存在としてその力を今へと伝えている。
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