Ⅱ 阪神大賞典

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Ⅱ 阪神大賞典

運命の昭和四十二年阪神大賞典。 出走はたったの五頭。  キーストン断トツの一番人気。   レーススタート。キーストンはいつものように逃げた。弥生賞、ダービーなどいろんなレースを共に勝ってきた最高のパートナー山本正司騎手を背に乗せ人馬一体となって一人と一頭は気持ち良さそうに駆ける。 第四コーナーを周り直線。キーストンは更に加速する。誰もがキーストンの勝利を確信したその瞬間キーストンは左足から崩れるように転倒。山本騎手も振り落とされ頭を打ち脳震盪をおこし気絶した。キーストンは必死にもがき立ち上がった。  観客は目を疑った。左一指関節完全脱臼。三本足の馬が立ち上がったのだ。 そしてピクリとも動かない山本騎手の元へゆっくり歩き出した。皮一枚でしか繋がっていない左前脚をひきずりながら一歩一歩パートナーに近付く。   その光景をアナウンサーは涙声になりながら実況する。観客は心のうちに叫ぶ。「もう歩かなくていいよ!…」。そしてテレビカメラまでもがその姿を追う。
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