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悲しくも美しい別れ
ようやく山本騎手のもとへ辿り着いたキーストンは心配そうに顔を覗き込み鼻ですすった。すると山本騎手は目を覚ました。キーストンの悲しそうな目が視界に入り山本騎手も意識が朦朧としふらつきながらも立ち上がった。そして寄ってくるキーストンを抱き、まるでキーストンの話し掛けに応えるように首を撫で言う。「いいよ……いいよ。」
かけつけて来た厩務員に手綱を渡した後山本騎手は再び意識を失い倒れた。
暫くして甦生した山本騎手はキーストンの死を聞かされ、泣いた。
誰もがキーストンの死を惜しんだがやはり一番悲しんだのは彼だった。
この事故の後、山本騎手は馬に乗れなくなり一時期引退までも考えたという。
あれから三、四十年経った今でも現山本調教師は鮮明に思い出してしまらしい。あの悲劇を、そしてキーストンが自分に言った最後の言葉を。
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