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盛大な歓声の中、巨大な豪華客船が汽笛を唸らせ港をゆっくりと離れて行く。
その上では、一人の質素な身なりをした若者が群衆に手を振っていた。
若者、デュークには手を振る相手など、いなかった。
それは問題ではない。
子供の頃から弾いていたクラリネットを路上で朝から夜中まで毎日演奏し、少しづつわずかな金を貯め、この豪華客船の三等室の切符をやっと手に入れたのだ。
それだけに喜びもひとしおで、彼は出港を見守る港のねずみ達にも手を振って応えたい気持ちだった。
「やっと………念願の夢が…………」
デュークは期待に胸をときめかせ、呟いた。
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