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夏の暑さが少しづつ引けて、最近は夜が肌寒くなってきた。
秋田のテレビでは気の早い暖房のCMがちらほら流れ始めている。
そんな中、坂居由紀【サカイユキ】は一心不乱に仕事をしている。
回りでは不可解な笑い声や絶叫にも似た泣き声も聞こえる…
由紀はそんな事には目もくれず、自分に与えられた仕事を機械の様に片付けていく。
いつからだろう…。
この仕事に慣れたのは…。
都会の内科から精神病院に移った時は気がおかしくなりそうだった。
外に出ようとして泣き続ける老人や、自分の排便を食べる患者…
一日中それらの患者と関わっていたもんだから自分も頭がおかしくなった感覚にまで囚われていた時もある。
実際毎日吐き気に襲われていた。
しかし、配属になって一年が過ぎた頃からだろうか?それらの行動が平気になってきたのは。
…いや、馴れたという言葉の方が適切かもしれない。
由紀は無理矢理、配属になった訳ではない。
自ら進んでこの田舎の病棟に志願したのだ。
全ては忌まわしい過去から自分を葬る為に…。
由紀は昔、大学でお世話になった教授の言葉を思い出していた。
絶対と言う言葉は絶対に存在しない。
そう言って絶対と言う言葉を好んで例えに使う教授だったのを覚えている。
確かにこの世の中で絶対とゆう言葉はを使うのは矛盾しているかもしれない。
しかし由紀は自分の出来事を通じて絶対が当てはまる唯一無二の言葉を見つけ出した。
時間軸だ。
現在から未来には行けるが、過去には一生かかっても行けないだろう。
だから過去はどんなに努力しようと変える事が絶対に出来ない、この世に一つだけ存在する唯一の絶対なのだ。
そして私もその絶対に一生縛られて生きていくんだろうな。
由紀はため息を吐き出し、帰り支度を終えると帰り道に最近よく見かける黒いセダンが見えてきた。
この道は町から病院を繋ぐ唯一の道で、病院の人間しかほとんど通らない。
そんな道にいきなり見知らぬ車が路駐しだしたのだ、嫌でも目につく。
まぁ医師のほとんどは病院脇の寮に住み込みなのでこの時間通る物好きは私位だろう…。
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