駆ける狐

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橋本真【ハシモトマコト】は覇気も無く目の前の歩行者を見つめている。 真は自分に無性に苛立ちを感じながら、一枚の写真を取り出すと時間が経つのも忘れてしばらくの間物思いにふける。 写真には軽くカールがかかった綺麗な髪を右手でいじるかわいらしい女の子が写っていた。 真はしばらく写真に見入ってから、やっと重い腰をあげると時計を確認しながら人通りの無い路地裏に足を運ぶ。 回りには目の光りを失ったホームレスらしき老人や、遠くを見つめる若者が見える。 真はそんな光景を気にも留めず更に奥に進んで行く…。 するといきなり横から女の声が真に話し掛ける。 「ちょっと!時間は守ってって何回も言ってるでしょ!」 女は腕を組みながら、ふて腐れている。 真は何も言わず万札の束を女に差し出す。 「あんまりやり過ぎると馬鹿になるよ」 女は心配する顔など微塵も見せずに言葉を続ける。 「はい、いつもありがとさん」 女は白い小さな袋を取り出すと真の手に乱暴に放り込む。 「千鶴…少しは…おしとやかって言葉について考えてみたらどうだ?」 真が毒づくと千鶴は舌を出して大通りへとスタスタ歩いて行ってしまった。 真は静まり返った路地裏を歩き出す。部屋に着くと先程受け取った小さな袋をテーブルに静かに置いた。 そして電気もつけずにベットに横になりまた物思いにふける。 「泣かないで…俺が必ず…お前の顔を取り戻してやるからな…」 真は言葉を宙になげると、寝ているのか起きてるのか解らない空間に自分を無理矢理閉じ込めた…。 向こうには女が見える。 女はいつも無垢に笑う。 そして… 悲痛な叫び共に闇に吸い込まれていく…。 真は笑っていた… 抑えきれない涙を拭いながら…。
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