駆ける狐

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時は遡り3年前の2月の中旬、相沢はいつもの様にアパートを回っていた。 と言っても別に営業をしている訳ではない。 やや派手めのスーツに身を包み、腕にはギラギラといやらしいブレスレット指にはごつい指輪が所狭しと並んでいる。 相沢が今している仕事は金融会社の業務である。 しかも真っ当な会社ではなく、月の利子が29、4パーセンテージを大幅に超える悪徳金融会社…いわゆる闇金である。 なぜ相沢はこの仕事を選んだのか…それはとにかく給料が良かったからだ。 相沢の家は母親と妹の3人家族で構成されている。 決して裕福とは言えない環境の中で育ってきた相沢にとって初めて手にした大金はある意味、薬物と似たような効果を持ち始める。 女。服。マンション。ギャンブル…好きな事に金を使える感覚は徐々に相沢の脳を侵食してゆく。 確かに上下関係や張り込みなどでキツイ面はあるが、それ以上に充実感が相沢の中では上回っていたのである。 それとお金が必要だった理由がもう一つあった。 妹の為である。 妹が看護婦になりたいと言い始め、専門学校やその他もろもろの資金が必要だった。 相沢は自分の母親には愛情を感じない。 しかし妹は違う…昔から自分の事を第一に考えてくれた。 家の家事も働かない母親の代わりに毎日学校が終わってから必死にやってくれた。 そんな妹の為に自分が出来る事と言えば毎月金を送る。 それぐらいしか恩返しが思いつかなかったのだ。 何件かアパートを回り、取り立てを終えると相沢は新宿にある事務所に戻った。 事務所に戻ると部屋の中は電話の応対やら契約のお客やらでざわめいている。 その中で黒革のソファーに大の字に踏ん反り返っているスーツの大男が話し掛けてくる。 「相沢~、回収済んだか?」 ニコニコしながらも、大男の目は決して笑ってはいない。 「はい、金城さん。残らず回収してきました」 相沢はハキハキ答えると金城の前に今さっき回収してきた現金を差し出す。 「おつかれさん、じゃあ契約したいって言ってる客来てるからお前やれや」 金城が指さした向こうには軽く会釈する二十歳前後の女性が立っていた。
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