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およそ四十分後───
稲木駅で降りたオレたちは、郊外を目指して歩いていた。
駅前ならではの賑やかさは既に無く、澄んだ風が吹いている。
「神崎君、疲れた?」
「何で? そんな疲れた顔してた?」
「そうじゃないけど…こんなに歩いてると、さすがに辛いかなって思うから…」
「むしろ体に良いよ。ここまで長い距離歩くの、久しぶりだし」
すぐ隣の街に、こんなにも静かな場所があることは知らなかったが。
「そう? なら、良かった」
ニコッと擬音を入れたくなる笑顔は、聖母がごとき優しさに満ちていた。心が潤う…。
だがしかし。これからオレは、この純真無垢な子の父親を説得せにゃならん。
(大丈夫か…?)
いや、その前に"大丈夫"って何だ? 葛西の親父さんを説得できるか、ってことだよな?
「あ。見えてきたよ」
頭の中でグルグル考えているところに、葛西が嬉しそうに言った。
それに触発され、伏せ気味だった顔を上げて、
「!………」
絶句する。
「? 神崎君?」
呼びかけられた後も、少々固まってしまった。
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