11.嵐の前の騒がしさ

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およそ四十分後─── 稲木駅で降りたオレたちは、郊外を目指して歩いていた。 駅前ならではの賑やかさは既に無く、澄んだ風が吹いている。 「神崎君、疲れた?」 「何で? そんな疲れた顔してた?」 「そうじゃないけど…こんなに歩いてると、さすがに辛いかなって思うから…」 「むしろ体に良いよ。ここまで長い距離歩くの、久しぶりだし」 すぐ隣の街に、こんなにも静かな場所があることは知らなかったが。 「そう? なら、良かった」 ニコッと擬音を入れたくなる笑顔は、聖母がごとき優しさに満ちていた。心が潤う…。 だがしかし。これからオレは、この純真無垢な子の父親を説得せにゃならん。 (大丈夫か…?) いや、その前に"大丈夫"って何だ? 葛西の親父さんを説得できるか、ってことだよな? 「あ。見えてきたよ」 頭の中でグルグル考えているところに、葛西が嬉しそうに言った。 それに触発され、伏せ気味だった顔を上げて、 「!………」 絶句する。 「? 神崎君?」 呼びかけられた後も、少々固まってしまった。
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