プロローグ.騒動の前には静寂がある

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同時刻 桜峰魔術師学園 第2寮棟前─── 「ふぁ……」 管理人・輝一梨花(きいち りか)は、竹ホウキを携えたまま、大きなあくびをした。 ここ最近、彼女はあまり寝ていない。 夏休みになると、たくさんの生徒が一斉に帰省する。休みに入る前から、宅配業者などの手配に追われているのである。 この忙しさは何度も経験してきたが、輝一は未だに慣れることができない。 (おばあちゃん…。毎年毎年、大変だね…) 輝一の脳裏に、優しげな笑顔が浮かんでくる。 自分がこの仕事に就くきっかけをくれた、憧れの管理人だ(※第1巻 第3章を参照)。 だが同時に、 (………) 別の人物の顔も浮かんできた。 (…最後に会ったの、何年前だっけ……?) 思い出しながら、空を見上げる。モコモコとした入道雲が、青を背景にして現れていた。 ふと、 「…右京君……」 その人の名前が、口を突いて出た。 「びぇっくしッ!」 学園の職員室で、一人の教師がくしゃみをした。
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