3.祭りで金魚すくいをやると、大抵損する

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「神崎君」 「?」 背後から呼ばれた。振り向くと、そこには葛西。 「どうした?」 オレの質問に、葛西は質問で返す。 「えと…今夜お祭りがあるのは聞いた?」 ああ。右京氏からではなく教官からだが。 「その時に着る浴衣を、島の人が特注で作ってくれるらしいの」 おいおい。浴衣って、安くないだろ? 「大丈夫だよ。お金は、学園が出してくれるらしいから」 太っ腹なこった。 「サイズとか、お昼ご飯の前に、測っておきたいんだって」 「場所は?」 「玄関前の事務室」 「分かった。サンキュ」 そう返し、歩き出す。 「あ、神崎君!」 今度は叫ぶように呼ばれた。心臓がちょっと跳びはねちまったぞ…。 「今度は何だ?」 「………」 沈黙して下を向く葛西の顔に、ほのかな朱がさす。 (………) 可愛いな…。 ユーリのような西洋系の美人とは、また違ったタイプの美人だ。 「お祭りには…慎士君たちと行くの?」 「…そうなるかな」 再び訪れる静寂。 数秒後、 「あの…」 蚊の鳴くような声。 「もし…良かったら…」 ゆっくり顔を伏せながら、一言一言を区切るように言う。 最後に、 「お祭り…一緒に行ってくれませんか…?」 辛うじて、というくらい小さな声が聞こえた。
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