3.祭りで金魚すくいをやると、大抵損する

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葛西と話しながら歩く内に、事務室に着いた。 「…じゃあ、夜にまた」 「ああ」 オレが返すと、葛西はまた顔を赤らめ、駆けていった。女子は別の部屋に集まるらしい。 オレは、その嬉しそうな後ろ姿が見えなくなるまで、廊下に立っていた。 で、部屋に入ろうとしたのだが、 「…!?」 強烈な"何か"を感じ、振り返った。 そいつは壁に背を預け、オレに無感動な視線を送っている。 「………」 木宮だ。ただ立ってるだけなのに、どこか気品に満ちている。 「………」 無表情も沈黙も相変わらずだが、その表情には、わずかに観察の色が入っていた。 …とりあえず、 「…よう」 片手を挙げてあいさつ。 対する木宮は、小さく頷いて返した。お辞儀のつもりらしい。 オレが次の言葉を言う前に、ポツリ。 「…デートか?」 …何でもお見通しってか。 「そんなんじゃねーよ」 オレは否定するが、木宮は目を逸らさない。 全てを飲み込みそうな黒い瞳は、ブラックホールを思わせる。 長い沈黙の果てに、たった一言。 「…泣かせるなよ」 それだけ言って、さっさと部屋に入っていった。 誰もいない廊下で、冷や汗をかきつつ黙り込む。 「………」 …肝に命じておこう。
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