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葛西と話しながら歩く内に、事務室に着いた。
「…じゃあ、夜にまた」
「ああ」
オレが返すと、葛西はまた顔を赤らめ、駆けていった。女子は別の部屋に集まるらしい。
オレは、その嬉しそうな後ろ姿が見えなくなるまで、廊下に立っていた。
で、部屋に入ろうとしたのだが、
「…!?」
強烈な"何か"を感じ、振り返った。
そいつは壁に背を預け、オレに無感動な視線を送っている。
「………」
木宮だ。ただ立ってるだけなのに、どこか気品に満ちている。
「………」
無表情も沈黙も相変わらずだが、その表情には、わずかに観察の色が入っていた。
…とりあえず、
「…よう」
片手を挙げてあいさつ。
対する木宮は、小さく頷いて返した。お辞儀のつもりらしい。
オレが次の言葉を言う前に、ポツリ。
「…デートか?」
…何でもお見通しってか。
「そんなんじゃねーよ」
オレは否定するが、木宮は目を逸らさない。
全てを飲み込みそうな黒い瞳は、ブラックホールを思わせる。
長い沈黙の果てに、たった一言。
「…泣かせるなよ」
それだけ言って、さっさと部屋に入っていった。
誰もいない廊下で、冷や汗をかきつつ黙り込む。
「………」
…肝に命じておこう。
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