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静寂が訪れるが、
─カコンッ…
鹿威しが鳴るのを合図に、夢海さんが口火を切った。
「神崎君のこと、晴海からよく聞いてるわよ」
「え?」
思わず彼女の顔を見る。嬉しそうな笑顔が、まっすぐに見つめ返してくる。
「あの子、たまに帰ってきた時、色々な話をしてくれるんだけど…必ずあなたのことを話に出すのよ」
「そう、ですか…」
だからオレのことも知ってたのか…。
「そのあなたが、今日来てるって聞いた時は、その…てっきり"そーゆー挨拶"かと…」
「あの、それは…」
「分かってるわ。ウチの頑固な大黒柱に、何か話があったんでしょ?」
「…はい」
ああ、やっと話を戻せた。この達成感は何だろう?
「クラスマッチに出場できるように、一緒に説得してくれないかって、葛西さんに頼まれたんです」
「ごめんなさいね。あの子のために、わざわざウチまで来てもらって…」
「気にしてませんよ。大したことでもないんで」
真っ赤な嘘だと、心の中で笑ってしまう。
「クラスマッチに出場、か…」
ポツリと呟いた夢海さんは、どこか遠い目で物思いにふけり始める。
「………」
何と言って沈黙を破ろうか、考えられたのも数秒。
「神崎君」
彼女が呼びかけてきた。
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