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五分ほど後───
晴十郎さんの寝室の場所は、通りすがりの使用人に聞いた。
使用人まで和服とは…やるな、葛西家! てなことを考えてる内に、そこに着いた。
さっきの和室も立派なふすまだったが、この部屋のヤツは、その何倍も立派な気がする。
ノックしようとした手を引っ込め、代わりに呼びかける。
「葛西。まだいる?」
「あ…うん。入っていいよ」
声が返ってきたから、ふすまを開けて入室した。
晴十郎さんは布団に寝ており、葛西はその枕元に座っている。
「今布団敷いて、寝かせたところ」
「そっか。お疲れ」
「ううん。慣れてるから」
晴十郎さんが気絶しているためか、葛西の顔に、緊張の色は見られない。
「でさ、葛西。説得のことなんだけど…」
「うん。もうすぐ起きると思うから、その時に…」
「いや、そうじゃなくて…」
オレの言い淀む様子に、葛西は小首を傾げた。
「その…」
自分の結論を言うことに、今さらながら迷いを感じる。
まあ、一度決めたことをいつまでも迷ってるほど、オレは優柔不断な男じゃねーけどな。
「…葛西」
「何?」
「…今度のクラスマッチ…お前は出ないで、家の用事を優先した方がいいと思うんだ」
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