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鋼介退室後───
「…いつ起きたの?」
「彼が入ってきた時だ」
葛西の問いに、晴十郎はずっしりした声で答える。
「じゃあ、話も最初から?」
「ああ」
「そう…」
自分たちの会話が筒抜けだったことに、葛西は縮こまってしまった。
対する晴十郎も、言い出しづらそうに黙り込む。
掛け時計の秒針が、半回転した頃、
「晴海」
晴十郎が口火を切った。
「…何?」
「何故お前は…他の誰でもなく、彼を説得のために呼んだのだ?」
「それは………」
葛西は、自分が答えに詰まったことに驚き、数秒間考える。
考えて、言葉を整理して、言った。
「神崎君だったら…みんなが納得できるように、話を上手くまとめられる、って思ったから…」
晴十郎は娘の言葉に、目を閉じて聞き入る。
次に彼が口を開いた時、たっぷり十秒が経過していた。
「…信頼しているのだな」
「うん」
葛西がはっきり頷いたことに、晴十郎は密かに驚く。
同時に、彼女が鋼介をどう思っているのか、直感的に理解した。
「晴海」
「?」
「彼は…率直に言って、大した男だな」
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