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が、間髪入れずに、責めるような一言。
「もっとも、『前は良くて今はダメなの?』って、少し抗議したくもあるんだけどね」
「…済まない」
今回こそは出てもらおう、というだけではない。
風の便りに聞いたクラスマッチの様子が、彼の想像より、だいぶ荒っぽかったからだ。
「…お父さん」
「ん?」
ふすまに手をかけ、振り向いた葛西が言う。
「お父さんが"心配してる"通り」
「………」
「私は…神崎君のことが好き」
「…そうか」
「でも大丈夫だよ!」
やけに明るい声に、晴十郎は顔を上げられずにはいられなかった。
「神崎君は良い人だから」
「…そうか」
簡単で、この上無くまっすぐな言葉に、彼は先程と同じ返事を返す。
「…じゃあ行くね。待ってると思うし」
「む…ああ」
晴十郎の応答を聞いた葛西は、寝室を後にした。
途端に静寂が訪れる。
「………」
目を閉じる彼の胸に、幼き日の葛西のセリフが去来する。
『晴海ね、大きくなったら、お父さんのおよめさんになる!』
それを聞き、感動のあまり泣いてしまったのは、余談。
(当然と言えば当然か…)
晴十郎は、けっこう落ち込んでいた。
いわゆる親バカなのである、彼は。
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