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鋼介サイド───
晴十郎さんの意向は、門の外に出た時、葛西から聞いた。
「じゃあ、初日は遊べるってわけか」
「うん。お父さんにしては、譲歩した方だよ?」
厳しい家庭環境だ…。葛西自身は、もう慣れているのだろうが。
「それに、嬉しかったし」
「嬉しかったって…何が?」
キョトンと聞くオレに、葛西は眩しいほどの笑顔で言う。
「私ね…正直なところ、お父さんはちょっと苦手なんだ。
いつも仏頂面で怖くて、何を考えてるか、分からないところがあるから」
「まあ、分からなくもねーけど…」
あの人の気迫は、幾多の死線をくぐり抜けてきた、剣豪を思わせたぜ。
「でも、ちゃんと私の心配をしてくれてる、ってことが分かったから」
葛西の微笑みは、周りの人に幸せを分けているかのようだ。
「だから今は…とても嬉しい」
「…そっか」
返すオレは、しかし後ろめたさを感じていた。
結局オレは、晴十郎さんじゃなくて、葛西を説得したんだよな…。
約束を破ってしまった時のような、重たい自責の念がのしかかってくる。
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