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夜───
施設の露天風呂は、竹垣で囲まれた、ありふれたものである。
竹垣の外は、わずかな月光が射すばかりの暗闇。
その中を、
─ザリッ…ザリッ…
─ジャリッ…ジャリッ…
足音を殺しながら、人影が動いていた。
「…本当にこっちで合ってんのか?」
「明るい内に確認しといたんだ。間違い無ぇよ」
関と慎士。いわゆる"覗き"だ。
「レンズもフィルムも破壊されちまったんだ…。もう自分の網膜に焼きつけるしか無ぇだろ」
慎士は押し殺した声で、自らの熱意を語る。
「まあ、焦らず行こーぜ。まだ時間はある」
ここの露天風呂の男女は、時間交代制になっている。こんな具合に…。
9:00~10:00…女子
10:00~11:00…男子
11:00以降…混浴
ちなみに、現在時刻は8:55だ。
「いや、分かってんだけどさぁ、どうにも落ち着かなくて…」
「…言い出しっぺの割りに度胸無ぇな」
いたってのんびり話す二人。
その背後から、
「…おい」
覇気の無い、ダルそうな声が届いた。
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