+α.夢を追うのもほどほどに

2/7
前へ
/562ページ
次へ
夜─── 施設の露天風呂は、竹垣で囲まれた、ありふれたものである。 竹垣の外は、わずかな月光が射すばかりの暗闇。 その中を、 ─ザリッ…ザリッ… ─ジャリッ…ジャリッ… 足音を殺しながら、人影が動いていた。 「…本当にこっちで合ってんのか?」 「明るい内に確認しといたんだ。間違い無ぇよ」 関と慎士。いわゆる"覗き"だ。 「レンズもフィルムも破壊されちまったんだ…。もう自分の網膜に焼きつけるしか無ぇだろ」 慎士は押し殺した声で、自らの熱意を語る。 「まあ、焦らず行こーぜ。まだ時間はある」 ここの露天風呂の男女は、時間交代制になっている。こんな具合に…。 9:00~10:00…女子 10:00~11:00…男子 11:00以降…混浴 ちなみに、現在時刻は8:55だ。 「いや、分かってんだけどさぁ、どうにも落ち着かなくて…」 「…言い出しっぺの割りに度胸無ぇな」 いたってのんびり話す二人。 その背後から、 「…おい」 覇気の無い、ダルそうな声が届いた。
/562ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101479人が本棚に入れています
本棚に追加