いち

6/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
黒、茶、赤、赤銅色。 様々な色をした独特の屋根が建ち並び、それを背の高い樹木が隠すように囲っている。 一つ一つの家の間隔は普通と比べると恐ろしく広く、代わりにどこまでも続く豊かな水田が視界を治める。 ここが、日本。 風が吹けば穂がさざ波の如く揺れ動き、耳に澄んだ心地よい音を届けてくれる。 見渡すだけで爽快な気分になれる景色は、クリスのいた島の景色と似通ったものがあった。 話で聞いていた日本とは若干、というか全く違うところだったが、クリスはすぐにここが好きになった。 今クリスがいるところは実は人の家の庭だったりするのだが、しかしそのことを知る由もないクリスはそこで寝転がって空を見上げる。 早朝の鮮やかな青空が見えた。 この日の一日前、クリスは青年が操るソリに潜んで日本まで着たが、時間は深夜で辺りには街灯の一本もなく、完全に闇に包まれたそこでは何も見ることができなかった。 クリスは無線機で島の皆と連絡をとっている青年から離れ、一晩過ごせそうなところを見つけてそこで夜を過ごした。 見上げていた空から目をそらし、立ち上がる。 都合よく目の前には一軒の民家があり、そしてクリスは腹がへっていた。 迷うことなくその家に上がり込むと、食べ物を探して歩き回り、そして冷蔵庫を見つけた。 冷蔵庫の中には、ある少年が昨晩買ってきていたコンビニ弁当が入っていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!