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それはお隣りの田中さんである、別に特別な存在ではないのだが何故かいつも龍が出掛ける時にどこからともなく現れる不思議な何処にでもいそうなオバサンで、龍は少し苦手なのであった、ゆっくりドアを開け慎重に外に出る、普通に歩きながら辺りの気配をうかがっている、しかし、今日はいつもと違う何も起こらないような気がする、出現場所が高い場所を抜け、気を許したまさにその時であった背後からいきなり…
『あら、先生お出かけですか?』
出た、今日も来た、一瞬感じた希望はあわくも崩れた、覚悟を決め話しをする。
『あ、田中さんこんにちは、どうしました?体調が優れませんか?』
『いいえ、平気よ、ただ先生を見かけたから挨拶よ、挨拶…またそんな真っ黒な格好して、毎回言ってるじゃない、そんなんじゃ女の子はよってこないわよ、顔はカッコイイんだからもったいないわよ、そうねぇ~もっとこうカジュアルに決めたほうがいいわね、うん、絶対いいわ…そう先生聞いて…』
このままだと永遠に話が終わりそうにない、というよりどこまで話すかわからない、龍は留まらない話に割って入った…
『田中さん解りました、今後はもう少し田中さんの意見を取り入れてカジュアルにしてみますね、僕、用事があるので失礼してもいいですか?』
『あら、ごめんなさいね、ではまた、ごきげんよう』
(二度とゴメンだ)と毎回心で思いながらも笑顔で挨拶をしてしまう、(悪い人じゃ無いからな…ただ気配がまったく無いから怖い…)田中がいなくなると気持ちをもう一度リセットし、腑抜けが置いてある港へと移動する、地元の漁師とも仲が良い為停泊代はタダに近いほど安さですむ、小型の船であるが本土へ移動するのには海を渡らなければならないこの島では余裕で移動出来るほどの装備はそろっていた、キーを差し込みエンジンを回す、時間は色々あって6時近くになっていた、出港準備が出来ると船は日ノ出町へと向けて走り出した。
走り初めて間もなく辺りは暗くなり、そらは星が見えて来た、ライトを早めにつけ目的に向かう、夕日が水平線に沈んで行く姿は何度見ても幻想的で美しい、実は龍は普通なら絶対に持っている物を持っていない、それはコンパス、GPSといった位地を把握する道具である、寿命を延ばす以外もいくつか能力は持っているがこれは本人も解らない風、波、星、鳥の声など自然から読み取る…
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