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じゃお父さん私たちは帰りますから、本当に一人で大丈夫?
親父、意地を張っていないで俺んちに来いよ。
78歳の治平さんは黙って背中を向けると玄関のドアをぴしゃりと閉めて灯りを消してしまいました。
息子たちと娘たちはしばらく外で呆れていましたが、やがてそれぞれの場所に帰っていきました。
治平さんの奥さんのトミさんが亡くなって慌ただしく葬儀や初七日が過ぎた夜でした。
誰かが亡くなって本当に悲しく淋しく辛いのは一人になってからです。
子供たちには迷惑を掛けられねえじゃねーかよ、なあ婆さん。
治平さんはトミさんの遺影にむかって話し掛けました。
治平さんとトミさんは戦後間もない頃に出会い所帯を持ち四人の子供を育て上げました。
治平さんは頑固爺さんで近所でも評判の偏屈な木彫工芸家です。
そんな職人気質の治平さんを明るく愛想の良いトミさんが支えていたのです。
爺さんに任せておいたら売れる品物も売れないからねとトミさんはいつも笑っていたものです。
そんなトミさんを失った治平さんはますます偏屈に構えてしまっています。
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