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まゆは健太との思い出の品を一つずつ別れを告げながら箱に詰めはじめました。
健太とうまく行かなくなって、彼がこの部屋から出ていった冬の朝からずっと、もしかしたら彼が何食わぬ顔で帰ってくるんじゃないかと思いながら捨てられなかった食器や日用品。
手に取るだけで涙が出たお揃いのシャツ、旅行に行ったときに買った夫婦茶碗。あの時は確かな未来を信じていたのにと何度泣き明かしただろう。
だからまゆは新しい恋にも人生にも踏み出せずにいたのでした。
健太を憎んだこともありました、恨んだことも。それらすべてが生きる原動力だったのじゃないかと思ったことも。
今朝、段ボール箱を見つけてから、まゆは不思議に心が落ち着いてきた気がしたのでした。
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