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「そしてプレシデントの情報ネットワークも侮ってはいけません。」
ビゼーが頷く。プレシデントとは、恐らく社長の事だろう(厳密に言えば英語ではプレジデントなのだが、きっとビゼー語だ)。
「耳年増、歩くワイドショー、聖徳太子と様々な称号を戴いておりますれば。」
天津は不敵な笑みを浮かべる。
「今日は大した仕事が無いからこれだけしか居ないけど。先輩達は何かしらのプロだし代表は現場主義、衣食住は保証されてるし。遊び心と積極性と向上心…あと、ロマンがあればね。」
この10分後、上田志乃は生まれて初めての土下座をした。
「是非、入社させて下さい。…天津社長。」
閑静な住宅街。
上田という表札のある小さな一軒家の前に、黒い車が2台止まった。
スーツ姿の男が数名降り、最後にスキンヘッドの男が威厳たっぷりにゆっくりと降りる。
「おたくの、志乃君…は居ますか?」
応対に出た女性は疲れ切った表情で、黙って首を横に振る。
男は何やら小声で女性に話しかけると、くすんだ紫色の名刺を渡した。
女性は受け取った名刺を暫くぼんやりと眺めていたが、突然思い出したかの様に息を飲んだ。
「…まさか、あの人の?」
男は、ゆっくり頷く。
「必ず探してみせましょう、志乃君を。いえ、いずれは…。」
女性の手の中にある名刺には
八千代一家 蘇芳
と、印刷されていた。
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