9人が本棚に入れています
本棚に追加
そう。
俺・上田 志乃<うえだ しの>は、衣類や通帳や印鑑やその他諸々を詰め込んだボストンバッグを抱え、2度とこの家の敷居を跨がない覚悟で、長い長い放浪の旅に出る。
平たく言えば、家出だ。
高校を中退し、資格も技能も無いままカラオケ屋と1000円美容院のバイトを続けていたが…母は俺の顔を見る度に複雑な表情をするようになり、しまいには
「高校も満足に行けなかったなんて」
と迄言うようになった。
だったら、無理してハイレベルな私立とか行かせなきゃ良かったんだっての。
嫌味ったらしく、制服は母の寝室に投げ捨てて来てやった。
で。
とにかく俺は、これから跨ぐ事の無い予定の敷居を越え、鍵を閉め、裏のドブ川に鍵を投げ込み、漸く自由の身になった。
俺は自由だ!
と、『I can fly!!』などと叫びたくなるような状況はつい先週までの事。
俺は今まさに。
死ぬか生きるか負けるかの瀬戸際に居る。
最初のコメントを投稿しよう!