9人が本棚に入れています
本棚に追加
暫くして、知らない番号から着信が入った。
「お。…もしもし?今、白楽の駅前ですが…」
「あ、志乃ちゃんの携帯ですか?天津の迎えの者ですよー。駅前のどこですかね?茶色のローレル、見えますか?」
ローレルは確か、角張ってて平べったい車だった気がする…いや、そんな形容詞しか浮かばないんだ。車なんて興味無かったし。
「あ、居ましたねー。…窓から手振ってるんだけど、見えるかな?」
「あ、はい。白いシャツの…」
「そうそう、オバチャンね。早くおいで。」
切れた。
つか、志乃ちゃんて。
名前言ったっけ?
手招きされるまま、後部座席に乗り込む。
「あ、自分は上田…」
「上田志乃ちゃん。19XX年生まれの現在17歳。生まれてすぐ父とは離別、生死不明。よって家族構成は母ひとり。16歳で高校中退、他は学歴・賞罰共に問題無し。射手座のA型、好きな食べ物は味噌ラーメンとなめ茸オムレツ。」
!?
「だよね?」
「…です。」
運転席で満面の笑みを浮かべているオバチャンに、ただ俺は頷くしか出来なかった。
「これがウチの仕事…の、ひとつ。かなちゃんは情報のプロだからね。」
車が発進する。
「かなちゃん?」
「奏でる手って書いて、かなたちゃんって言うの。可愛いわよね。」
天津奏手とは、アマツカナタと読むらしい。
発進したばかりだと言うのに、赤信号に捕まる。
減速し、ゆっくり停止。
「奏手、さん…が、その、人事の担当の方ですか?」
1本の電話で、どれだけ調べられたんだ?
つか、上田家秘伝(か、どーかは知らんが)なめ茸オムレツがバレた!
「人事…まあ、そうだねえ。あ、ちょっとスピード出すけど、早いの怖かったら目隠ししてね。」
手渡されたのは、あの、洗顔とかする時のヘアバンド。
信号が青に変わる。
車体がガクンと揺れる。
最初のコメントを投稿しよう!