ビゼーとプレシデント

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  「…っはい!ここがゴールです。目隠し外して、階段気をつけてね。」 牧志さんに帽子とサングラスを剥ぎ取られると急に視界が開けた。 気がしたが。 目の前に有るのは、狭苦しく薄汚れた赤い階段。 「ここが有限会社・天津…」 「そうよ。さあ上がって上がって!後がつかえてるよ!」   毒々しい色の長い階段を上がりきった先に、分厚い鉄の扉が聳えていた。 「はい開けて!オバチャンかよわいから!」 いや。あのハンドル捌きは、決してかよわい人間に出来る業じゃないだろう。   威厳たっぷりの音を立てて、扉が開く。これが東京電力のオール電化。 「…めっちゃ自動じゃないっすか!」 少しビビったのは内緒にしておこう。 「志乃ちゃん、すごいパワーね!やっぱ男の子だわぁ…」 「いやいやいや…もう、お上手なんだから。」 牧志さんに促されるまま小綺麗なオフィスを通り抜け、応接間の看板が下がった部屋に入ると、赤く染めた髪が印象的な女の子が本革のソファについていた。 パンクな白いロングシャツに、黒い羽マフラー。派手なメイク。 誰がどう見てもバンドマンだ。 「ようこそ、上田君。まず、合い言葉は?」 「あ、合い言葉?」 取り敢えず向かいのソファに座ろうと身を屈めると、シャツの裾から女の子の脚が見えない事に気が付いた。 上田志乃、決して脚フェチなわけでは無い。しかし誰だって普通に驚くだろう。 「あの、脚…どうされたんですか?」 かなり失礼だが、気になった事は何でも追求したくなるのが俺の悪い癖だ。 「あんなの、ただの飾り…。」 ジ、ジオング!? 女の子はニヤリと笑う。 「『ジオング!?』って顔したね。よし、合格!」 言うなり彼女は本革ソファの上に仁王立ちになった。何故か正座をしていたらしい。 「あわ!革!革!土足!!」 そんな事よりこの子、ソファの上なのに土足だ!  
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