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「不思議の国だからさ」
「…それはもう聞いたわ」
「………。」
拗ねた子供のように軽く眉を寄せて答えるアリスにチェシャ猫は黙ってしまった。
「アリスは主人公だよ」
「…そうなの…」
言葉のキャッチボールが出来てない返事に、アリスは力の抜けた相槌をした。
長い溜め息をついた後、アリスはふとチェシェ猫の綺麗な髪に目を奪われた。
ほとんど無意識にチェシャ猫へ手を伸ばし髪の毛を撫でた。
一一一ぐるぐる…
突然チェシャ猫の喉元から猫が喉を鳴らす時と同じ声がして、ぴたりとアリスの手が止まった。
「ねえチェシャ猫さん」
「なんだい、アリス」
「あなた、本当の猫なの?」
チェシェ猫はまた黙って不思議そうに首を傾げ、斜め下を向いたと同時に前髪が目元を隠しアリスからは口元だけしか見えなくなった。
「チェシェ猫は猫だよ」
「そう…なの…」
チェシェ猫の目が見えなくなり、何となく恐怖がアリスの心に沸きだち、返事をした声が震えた。
数秒の間を置いてから再び顔をあげたチェシェ猫の目を見ることができ、アリスはほっとしてチェシェ猫の髪を触っていた手を引き戻した。
そして、ふと疑問が浮かんだアリスは視線だけを下にして口を開いた。
「白ウサギ…私だけで追い掛けるの?」
アリスが不安そうに聞いた。
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