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「チェシェ猫さん…?」
「アリス。危ない。」
表情は笑顔なのに、どこか急かしているようなチェシェ猫の口調に、何となく嫌な予感がした。
「何が危ないの?」
「消えるよ」
「…何が?」
主語がない台詞が理解できず、アリスがチェシェ猫に聞くと唇は弧を描いたまま黙って目を瞑ってしまった。
アリスが一人で落ち着きなくオロオロしていると、チェシェ猫が大きく息を吸った。
「Je prie pour ton bonheur.」
「え…?」
チェシェ猫が呟いた言葉にも驚いたアリスだが、更に驚いたのはチェシェ猫の手の上に一瞬光が集まってから本が出てきたことだった。
チェシェ猫がゆっくりと目を開き、目を見開いて口を半開きにしながら驚いているアリスを見て、もう見慣れてしまった笑顔のまま本を開いた。
「ねえチェシェ猫さん」
「消えてしまうよ」
「…何が消えるの?」
アリスはチェシェ猫に聞きたい事が山程あるけれど、先程しか同じ台詞しか言わないチェシェ猫に、その台詞の意味を尋ねた。
「物語の生き物」
「え?!どうして?」
再び驚いたアリスは急いで開いている本を見た。
けれど、その本には文章も絵も書いておらず、まったくの白紙だった。
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